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グローバリズムが生むナショナリズム

photo:鈴木壮治一橋総研代表  鈴木 壮治

グローバリズムが生むナショナリズム

グローバリズムによる新自由主義経済、TPPに賛同するも、対中国強硬策を主張し、ナショナリズムを発揮する融通無碍の識者がいる。

その「矛盾」も「米国の戦略に従っていくのが、日本にとってベスト」という考えの中で、溶け合っていくのであろう。

社会学者のサスキア・サッセンは、領土概念を下記のように整理した。

      ○ 排他的領土権(国家が自らの領土の中で排他的に主権を行使できる制度的枠組み)

      ○ 国家(国家は一定の土地空間が必要)

グローバル多国籍企業・巨大金融資本に有利な交易・金融におけるグローバリゼーションは、新たな制度的枠組み(モノ・カネ・サービスが国境を自由に往来できるシステム)の構築と軌を一にしてきた。

まさしく、EUの「人・モノ・カネ・サービスの自由な移動」は、その具体例である。それは、EU諸国が排他的領土権のかなりの分を放擲させることにより実現されてきた。

「英国のEU離脱」は、少なくとも下記を、我々に突きつけている。

官僚独裁

独裁とは行政権力が立法府権力を代行する状態であり、行政を実質的に官僚が牛耳る場合は「官僚独裁」となる。

欧州議会には、EUの官僚を監視できる十分な権力が無く、その結果の「官僚独裁」への不平不満がEU諸国に溜まり、それを英国が「EU離脱」で吐き出したと言える。

米国においては、憲法が行政権をかなり制限しており、政治権力が分極化し、国家戦略の決定、実行がままならない状態(フランシス・フクヤマは、それをVetocracyと命名)となっている。

しかし、日本では、政府・官僚が、その米国政府に「便宜」を図ることで、米国という後ろ盾を得て、「独裁制」が維持されてきた。

ウイキリークスは、米国政府が米系多国籍企業のために、同盟国をスパイし、米国に協力的な同盟国のKey figuresをどのように昇進させたかを明らかにしたが、日本も、その例外ではないであろう。

国家の排他的領土権の放擲

多国籍企業による国家権力を使った「帝国的」な動き、すなわち、諸国家に、その排他的領土権を放擲させ、脱領土的なグローバルネットワークを構築し、国民経済(ナショナリズム)を凌駕してきたことに、英国民は「EU離脱」で反発した。

日本は、日米地位協定により、かなりの「排他的領土権」を失っており、また、グローバル資本により、国民経済も蔑ろにされつつある。

「排他的領土権」を失いつつある日本を含む主権国家は、残された領土概念「国家には一定の土地空間が必要」を守るために、お互いに地政学的緊張感を高めあっている。

それは、グローバリズムが生んだナショナリズムな動きと言える。

(平成28年7月5日 掲載)

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