朝鮮半島危機と日本の正念場

photo:鈴木壮治シンクタンク一橋総研 代表
                一般社団法人一橋総合安全保障研究所 理事長
鈴木 壮治


ついに、日本は正念場を迎えた。

オバマ政権の対北朝鮮「戦略的忍耐」のおかげで、核兵器とミサイルの開発に取り組めた北朝鮮は、既に日本を核弾頭搭載可能ミサイルの射程内に捉えている。

米国は、「親米国家」になりたがっている北朝鮮を「朝鮮半島の非核化」を盾に拒絶しつつも、核ミサイル開発を容認してきた。 

その結果、米国は北朝鮮が引き起こす東アジアの地政学的・軍事的リスクの高まりを「利用」し、中国とロシアを戦略的視野に置いたミサイル防御システム「高高度ミサイル(THAAD)など」の韓国そして日本への配置等の軍事的強化の機会を得た。

そして、それは米国の軍産複合体の利益にも叶うものである。

北朝鮮は、米国を何とか交渉に引きずり込み、「米朝不可侵条約」締結を悲願としている。その狙いは、朝鮮半島有事の際、米軍の介入を回避し、核兵器を有する北朝鮮が、南北統一を主導しようというものである。

そして、北朝鮮は、その「切り札」が米国本土への核攻撃能力であると考えている。

ロシアと中国は米国の先制核攻撃に対する反撃(第二撃)能力を有しているので、既に両国に対しての米国の核の傘は形骸化している。

しかし、米国本土への核攻撃能力を有さない北朝鮮に対しては、核の傘は有効である。日本は、その核の傘の有効性担保を日米安保に期待している。

米国は、日本の自主的核装備を抑え、アジアへの橋頭保としての日本を自らの強い影響下に置いておくためにも、核の傘の有効性を保たなくてはいけない。

しかし、北朝鮮は韓国そして日本の米軍基地、日韓国民そして両国在住の米国民を対象とした核攻撃能力を盾に、米国が日本と韓国に差し掛けている核の傘(拡大核抑止)へ挑戦してきた。そして、北朝鮮の米本土への核攻撃能力は、核の傘を破ることに繋がる。

与党「自由韓国党」の洪準杓韓国大統領候補は「核には核で対抗しなくてはならない。米国の戦術核再配備を通じ、朝鮮半島の核の均衡を達成する」と語った。

日本も韓国同様、北朝鮮の核の脅威にさらされており、核武装をタブー視せず、真剣かつ具体的に核兵器による核抑止戦略を構築・実行すべきである。既に、ティラーソン米国国務長官は「北朝鮮の核を抑止するために、日本の核武装もオプションの一つだと」と言い切っている。

そのコメントは米国の「本心」ではなく、中国への「北朝鮮の核開発を容認していると日本が核武装への道を歩みだすぞ」という警告である。

米国は、核の傘を破られ、アジアへの橋頭保としての日本と韓国を「失う」ことにより、ユーラシアからキックアウトされることを最も恐れている。

その可能性を高める北朝鮮の米国本土への核攻撃能力を潰し、北朝鮮優位の南北統一を阻止し、同盟国である韓国そして日本の東アジアにおける相対的な力を自らの影響下で維持しようというのがトランプ政権の戦略的意図である。そして、トランプ政権は、それを実現するためには、武力使用を躊躇わないであろう。そして戦争の「主戦場」は韓国と日本になる。


<政治の役割>

中国からの圧力を遮る北朝鮮は、地政学的に韓国と日本にとって重要な国である。

米国との同盟関係にあり、自国内に米軍基地を置く韓国と日本を北朝鮮が武力攻撃し、お互いに壊滅的なダメージを受けた場合、喜ぶのは東アジアにおける相対的影響力を強められる中国であり、ロシアである。

また、日本を蚊帳の外において、米中間で、北朝鮮崩壊シナリオと崩壊後の国連軍の活用、核兵器と核開発施設の廃棄に関する主導権、復興における米中の協力体制そして朝鮮半島の政治体制(中立化など)も協議されている可能性がある。

朝鮮半島有事なれば、国連軍が在日米軍基地より出撃し、日本が戦いに巻き込まれることは避けられない。

国民の安全と安心を確保するのが政治の責務であり、安倍政権が国民に対して、その責務を全うする時が来た。

「米中は朝鮮半島で激突する」(福山隆著:ビジネス社 2017年5月1日初版)は「朝鮮半島有事において米軍は、在日米軍基地はもとより民間空港・港湾を使用するなど、日本は全面的に朝鮮半島の争乱に巻き込まれる。また、大量の難民(武装ゲリラを含む)流入対処、北朝鮮による大量破壊兵器使用対処、法人・拉致被害者の保護など課題・問題は際限がない」と、日本の政治が為すべきことの幾つかを明らかにしている。

北朝鮮の核ミサイルが米国本土を射程内に捉えることを阻止するために「全ての選択肢はテーブルの上にある」と米国が言うならば、日本政府も、北朝鮮危機に対して、考えられる限りの全ての選択肢をテーブルの上に置かなくてはいけない。

それらの選択肢を柔軟に使えるように、憲法、日米安保、重要影響事態安全確保法、国際平和支援法など関連法規の見直し、改定を行うべきである。


<日米安保の不確実性>

もし、米国の先制攻撃への反撃として同盟国で在日米軍を持つ日本へ、核ミサイル攻撃をすることが自明であれば、日本国民の中で、日米安保を廃棄して、中立の立場をとって、米国と北朝鮮の戦争から逃れようとする「選択肢」に惹かれる短絡的な人々も出てくるであろう。

つまり、北朝鮮の核ミサイルは、米国による核の傘への挑戦であり、日米安保を弱体化させるリスクを孕む。

国民が個人としての自衛権(自然権)を国家に委託していないのが日本である。国民個々の自然権を束ねることにより、国家主権としての国家自衛権が生じ、国民国家共同体を守ることになる。

国家自衛権が明確に認められていない日本は、国の防衛・安全保障を日米安保により、米国に依存せざるを得ない。

オバマ政権は「世界の警察官」としての米国の役割を放擲し、その結果、世界が多極化し、国家間の利害を巡っての鞘当ては「複雑化」している。

よって、国家間の関係は不安定化し、同盟の「変動リスク」は高まっている。そのような情勢下で、日米安保が未来永劫続くという仮説で、国家安全保障戦略を構築することは危ういことである。

中国の対米第二撃力(核による報復攻撃能力)の増強と、また、冷戦時代(日本はアジアNo.1の経済力と通常兵器能力を有していた)に比べ、米国にとっての日本の「地政学的&経済価値」はかなり劣化しており、America Firstのトランプ政権が自国民を核攻撃に晒すリスクを冒してまで、日本を守ることはない。

日本に差し掛けられた米国の核の傘(拡大核抑止力)は既に形骸化しており、安倍政権が必死になって、米国政権に「追従」(米国の国益に日本が貢献する)しても、その努力が報われる保証はない。

また、日本が頼りとする日米安保の第5条には、北大西洋条約機構(NATO)条約・第5条に明記されている「兵力の使用」が記載されていない。

日米安保の「不確実性」と憲法第9条による「安全保障上の脆弱性」を補ってきたのが、「日米軍事同盟の実質化」(米国第一軍団の座間への移動、米軍と自衛隊の陸海空の指揮の一元化、横田基地の全世界を射程に捉えた一元的指揮センターへの再編そして安保法制など)の促進である。

 その日本には、憲法の縛りにより、懲罰的抑止力(報復威嚇)は許されず、拒否的抑止力(攻撃しても無駄と思わせる)のみが可能である。それを何とか打開せんとして、四・二二大綱(平成22年)で「動的防衛力」、そして五・二五大綱(平成25年)において「統合機動防衛力」が構築された。

 しかし「統合機動防衛力」は軍事的対応ができても、抑止力として機能せず、その対処力(軍事攻撃に具体的に対処する)も不十分である。よって、核抑止と通常抑止においても、日米安全保障による米国の軍事力に依存せざるを得ない状況にある。

トランプ大統領候補(当時)は「米国攻撃を受けても、日本は加勢する義務がなく、日米安保は不公平である」、「日本の核装備は容認する」そして「日本からの米軍撤退」などと声を荒げた。

「個別的自衛権」は、国家の利己的な自衛権ではなく、国民の国家に対する銃を持っての抵抗権であるとの認識を持つトランプ大統領候補の発言は、まさしく、日本の国体「憲法第9条と日米安保の組み合わせによる安全保障」への問題提起であった。

昨年の12月27日、安倍首相は、オバマ大統領(当時)との真珠湾慰霊の際、「日米同盟は、いままでにもまして、世界を覆う幾多の困難に、ともに立ち向かう同盟です。明日を拓く、希望の同盟です」と演説した。

そこには、日米間の「戦後」に決着をつけ、日米同盟を強固にして、米国と共に未来を切り開こうという安倍首相の強い意志が見出される。

しかし、「戦後」は、日本が安全保障統治において、主体性を取り戻すことにより終了するものであり、それがトランプ大統領の問いに対する答えとすべきである。

ビジネスの修羅場を潜り抜けてきたトランプ大統領は、主体性無い日本との非対称な同盟の脆弱性では、これからユーラシアそして太平洋で繰り広げられるパワー・ゲーム(特に中露同盟とドイツの連携への戦略的対応)を乗り切れないと直感していると思う。

日本の国家総合力を強化するためには、日本は主体性をもって、国際協調の理念の元、軍事と非軍事を融合した総合的国家安全保障戦略の構築と実行に踏み切ることが必要不可欠と考える。


<異なる日米のレッドライン>

トランプ政権は、米国本土までに届く、小型化された核弾頭搭載の大陸間弾道ミサイル( ICBM )の北朝鮮による完成をレッドライン(越えてはいけない一線)と断定はせず「 仄めかせて 」いる。

そして、米軍のカール・ビンソン空母打撃群が「不確実」な航行で、北朝鮮と中国への揺さぶりをかけつつ、海上自衛隊と西太平洋で共同訓練を開始した(4月23日)。しかし、今のところ(4月下旬)、韓国に15万人、日本に5万人いる米国民を退避させる動きは無く、その揺さぶりに余り効果は期待できない。

だが、カール・ビンソン空母打撃陣に、もう一つの空母打撃陣が加わると、米国の戦闘意欲の明確な表示となり、揺さぶりの効果は出る。

1996年3月8日に、中国が台湾沖に3発のM-9型地対空ミサイルを撃ち込んだ台湾海峡危機の際、インディペンデンス空母打撃群とニミッツ空母打撃群を台湾危機に派遣した。その結果、中国はミサイル演習を終了し、危機は回避された。

戦闘を想定した場合、空母一隻を失っても、他の空母一隻がそのバックアップをできる体制が必要となる。この空母二隻派遣した米国の不退転の決意と核戦力における彼我の差が中国を退かせた。

日本のレッドラインは、既に北朝鮮により超えられている。

米国が北朝鮮に軍事的攻撃を行うと、北朝鮮は在日米軍基地へミサイル攻撃などを行う可能性がある。北朝鮮は化学兵器を有し、3月6日に発射したスカッドER(射程距離1000キロ:三沢、横須賀、沖縄にある米軍基地が射程内)にそれを搭載できる。

しかし、海上配備型迎撃ミサイル(SM3)搭載のイージス艦一隻は、攻撃ミサイル数発しか同時に対応できない。また、イージス艦が逃した攻撃ミサイルをPAC3がどれだけ撃ち落とせるかは不確実。また、日本は、ミサイル攻撃を受け、北朝鮮のミサイル発射基地を把握しても、それをミサイルで破壊する「敵基地攻撃能力」を有していない。

軍事力に弱い国は他国の軍事的脅威に対する「許容度」を高くせざるを得ない。「ネオコンの論理」( Robert Kagan 著:光文社)中の「ナイフしか持っていない者は、森林をうろつく熊を許容できる危険と考え、敢えて戦って息の根を止めようとしない。一方、銃を持つ者はうろつく熊の脅威を許容しないで、撃つであろう」は言い得て妙である。


<米国に対するロシアと中国の挑戦>

米国にとっての「本当の敵」はロシアと中国であり、それに対応する Grand Strategy を未だ持たないトランプ政権では、「戦術」である北朝鮮への先制攻撃は「常識的には」できない。

ロシアが擁護するシリアのアサド政権へのミサイル攻撃 は、ロシアの「横っ面」を張るものであった。 そのトランプ政権の「即興」を、 Japan Times は「 Once hard on China and soft on Russia has been reversed 」(かっての中国に厳しく、ロシアに甘かったことが逆転した)と揶揄していた。

トランプ大統領は、シリアでアサド政権が化学兵器を使用したと断定し、4月6日の夜(米国時間)、習近平国家主席との米中首脳会談最中、59発の巡航ミサイル・トマホークで、アサド政権下の空軍基地を攻撃した。

化学兵器使用は人道上問題ありとするミサイル攻撃であったが、トランプ大統領の狙いは、必要ならば武力を行使する実行力を見せつけ、それを梃に、中国、ロシアなどとの政治、外交、経済・交易交渉における米国の立場を有利なものにしようというものである。

その攻撃は、アサド政権を軍事面で支援し、化学兵器使用が報じられた後もアサド政権を擁護するロシアの「横っ面」を張り、核兵器・大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を進める北朝鮮に対して、米国民が核の脅威に晒されるリスクは武力で御するというトランプ大統領の決意と実行力を見せつけた。

そして、その一環として、トランプ大統領は、4月13日、アフガニスタン東部にある「イスラム国」の地下複合施設破壊を目的として、核兵器を除くと最大級の破壊力を持つとされる大規模爆風爆弾「モアブ」を使用した。

トランプ大統領が軍事力を梃に国益を増幅させようとしても、今後は「冷戦の勝利品」としての米国のグローバル覇権(新自由主義思想によるグローバル経済・金融秩序と軍事体制の組み合わせ)が衰退し、そしてEUの脆弱化がさらに進むであろう。

冷戦集結に際してのゴルバチョフとの約束を西側陣営が反故にし、ゴルバチョフが構想した「ユーラシアの統合的安全保障システム」も霧散し、旧ソ連崩壊により塗炭の苦しみを味わったロシアの「反撃」が顕著になってくる。

プーチン大統領は「米国主導のミサイル防衛システムに負けない核ミサイルの開発そして配備を進める」と発言した。

それに対して、トランプ大統領は、就任前の昨年の12月22日のツイッターで「世界における核の良識が戻るまで、米国は核能力を大いに強化・拡大する必要がある」と記した。

米国とロシアが張り合うと中国の存在感が高まり、ロシアと中国の同盟強化は日本と米国の安全保障を脆弱化させる。

力の秩序を主導する「既存大国」と、それを脅かす「新興大国」との対峙の約7割は、戦争で決着がつけられてきたことを、歴史は雄弁に物語っている。

米中の鬩ぎあいも、その例外ではない。昨年の12月25日、ついに中国人民解放軍の空母「遼寧」戦闘群が、沖縄−台湾−フィリピンを結ぶ「第1列島線」を超えて、西太平洋に出た。米国が仕切る「アジア太平洋の海の秩序」への明らかな挑戦である。

その背景には、中国が非対称兵器である空母破壊能力を持つ対艦弾頭ミサイル、低高度巡行ミサイルなどにより、アジアの米軍の基地と空母戦闘群を脆弱にさせつつある事実が背景にある。

冷戦時代、米国と旧ソ連のトップは「Hot line」を持ち、両国は核装備の実態などの軍備情報開示を行い、情報衛星通信を、お互いが攻撃し合わない「聖域」とし、万が一に備えて「対峙」していた。しかし、中国は軍事情報を開示せず、また、自国の通信衛星の破壊実験を行い、いざという時は、米国の通信衛星網を破壊する意志と力を誇示した。


<グローバル化が進む世界で国民を守る>

北朝鮮の拉致被害者を救い出すために、自衛隊が北朝鮮に入るためには「受け入れ国」である北朝鮮政府の許可が必要である。また、自衛隊の武器使用は相手の出方に応じて、必要最小限度に抑える「警察比例の法則」に縛られ、拉致被害者救出が非常に困難である。よって、日本は、米国に拉致彼我者救助をお願いしなくてはならない状況にある。

自衛権は憲法の概念ではなく、国際法の概念(国連憲章上の武力不行使原則の例外規定)である。よって、個別的自衛権は合憲で、集団的自衛権行使容認は違憲とする「論争」は、多くの国民にとって理解困難なものであった。

違憲論者の意見は、概ね、次記のようなものである。集団的自衛権は「軍事権」であり、政府には軍事権(組織法上の権限規定)が無いので違憲である。

また、個別的自衛権には、作用法上の根拠として、憲法第13条(生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利を政府は守る義務を有す)があるが、同条は集団的自衛権の作用法上の根拠にはならないので違憲である。

グローバリゼーションの時代、世界で活躍する日本人の数が増え、海外でのテロ行為の犠牲になるリスク、国境は関係の無いバイオテロ、日本の社会インフラなどへの国外からのサイバーテロなどに対して、日本はどのように友好国と協力して国民を守るかの志向性で、自衛権を考えなくてはいけない。

政府は、個別的自衛権と集団的自衛権が重なる「範囲」でのみ集団的自衛権は有効との説明を行った。しかし、個別的自衛権と集団的自衛権は統合的に活用されてこそ、国の自衛力は高まり、グローバルな世界で活躍する国民そして日系企業を守ることができるのであり、限定的集団自衛権では、日本と日本人の安全・安心が確保できない。


<日本の自立と総合的安全保障機構>

米国が北朝鮮を攻撃すれば、北朝鮮は韓国そして日本にある米軍基地にミサイル攻撃をしてくるのは明らかであり、韓国と日本が米国と北朝鮮の戦争の主戦場になる。

よって、オバマ政権の「戦略的忍耐」に終止符を打ち、トランプ政権の「全ての選択肢がテーブルの上にある」とする対北朝鮮「駆け引き」に安倍政権は翻弄されるのではなく、国民をどのように守るのかを、憲法(第9条)改正にも勇気を持って踏み込んで説明すべきである。

特に北朝鮮の拉致被害者を救い出すための具体的手段を明らかにしてもらいたい。

日本の安全保障における主体性回復こそが、日米安保をアジアの同盟国・友好国に開かれた総合的安全保障機構の実現に繋がり、アジア太平洋の平和と経済秩序安定に寄与することになる。

「 THE PIVOT  アメリカのアジア・シフト」(カート・ M ・キャンベル/オバマ政権・元東アジア・太平洋担当国務次官補著:日本経済新聞社)で紹介されているのが、従来の米国を軸としてアジアの同盟諸国をスポークとする「ハブ・アンド・スポーク型」に替わる「連邦型アプローチ」である。

それは、同盟・友好国間の連系を促進し、各国政府と防衛産業などを巻き込んで統合させ、アジア地域の安定と米国の負担減を狙うものである。

日本は、憲法を改正し、日米安保を日米に限定しないで開かれた軍事と非軍事を包括する総合的安全保障機構へ発展させ、「連邦型アプローチ」に金融経済・環境・エネルギーそして食糧なの非軍事安全保障分野を加え、軍事と非軍事分野を包括する「総合安全保障機構」を提唱、実現に向けて尽力すべきである。

それは、軍事と非軍事分野を包括する人間安全保障との連携を具体化し、日本が「国家としての主体性」を取り戻すことに繋がると考える。

EUの脆弱性は通貨と国家主権の分断に起因する。共通通貨ユーロという「壮大な実験」は失敗であった。

ユーロ圏諸国は、日本のように中央銀行に国債を買い取らせる「財政ファイナンス」が許されず、マーケットで国債を売却し、財政健在化に励み、返済せざるを得ない事態に追い込まれている。

総合的安全保障の理念と戦略を有しない日本は、せっかく通貨主権を持ちながら、余り気にする必要が無いグロスベースの「財政赤字」に怯え、安全保障(軍事&非軍事分野)に大胆かつ戦略的に円を使わずにきた。

その結果、巨額な資金を軍備増強に使った中国の圧力に、尖閣諸島が晒されている。

安倍政権は、2014年7月1日、閣議で集団的自衛権行使容認を決定した。そして、必要最小限度の武力を行使する前提を「我が国への武力攻撃が発生した場合に限らず、関係の深い他国に対し武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合、我が国の存立を全うし、国民を守るために、必要最小限度の自力を行使することは、自衛の措置として憲法上許容される」と説明した。

「国民の命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」は、武力攻撃以外にも、医療介護、食糧、エネルギー、環境、貧困などの分野そして過激集団によるテロなどにより、国境に関係無く発生する。それらの分野を包摂する総合安全保障戦略で、「明白な危険」から国民を守らなくてはいけない。

「THE PIVOT アメリカのアジア・シフト」(カート・M・キャンベル/オバマ政権・元東アジア・太平洋担当国務次官補著:日本経済新聞社)で紹介されているのが、従来の米国を軸としてアジアの同盟諸国をスポークとする「ハブ・アンド・スポーク型」に替わる「連邦型アプローチ」である。

それは、同盟・友好国間の連系を促進し、各国政府と防衛産業などを巻き込んで統合させ、アジア地域の安定と米国の負担減を狙うものである。

日本は、憲法を改正し、日本の安全保障における自律性を高め、日米安保を日米に限定しないで開かれた軍事と非軍事を包括する総合的安全保障機構へ発展させ、「連邦型アプローチ」に金融経済・環境・エネルギーそして食糧なの非軍事安全保障分野を加え、軍事と非軍事分野を包括する「総合安全保障機構」を提唱、実現に向けて尽力すべきである。

それは、軍事と非軍事分野を包括する人間安全保障との連携を具体化し、日本が「国家としての主体性」を取り戻すことに繋がる。

雑誌「財界」(平成29年5月23日号掲載)

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